Shape of my word

日々の生活で感じたこと、思ったこと、考えたこと、を言葉にします

​ その春を告げる日は早朝から雨だった。走り始めた時には身体はずぶ濡れで、身体の暖まる余地もないほどに冷え切っていた。雨はやがて雪に変わり、桜の樹のまわりをふわりと舞った。初めてのフルマラソンだった。手先がしびれて給水所のバナナの皮がむけずにジャムパンを口にねじ込んで走った。ひたすらなにも考えないことに集中した。30キロを過ぎた頃に思うように脚が動かなくなるのは知っていたので、いかに疲れないように距離を潰すかを考えながら走った。冠水して通れない道は塀に上がり、鉄橋に積もった雪で滑らないように歩いた。まるで映画に出てくる軍人のスパルタ訓練みたいだと思いながら走った。最後の10キロは自分の心臓の音が大きくなるほど、息を切らして、ゴールした時は達成感より安堵感が強かった。もう走らなくていいのだと。頭に積もった雪を払って息を整えた。背後を走る気配は自分の地面を蹴る音だとゴールした時にやっと気が付いた。自分の影に追いかけられていたのだと。マラソンは自分との闘いだと、はじめて分かった気がした。3時間55分17秒のタイムだった。