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人に必要以上のことを求めなければ、必要以上に干渉もしない。節度とマナーをもって距離感を大切にする。人のことをどうこうしようと思わないし、どうこうされることもない。バランスを保ちながら、ほぼ同じペースで進んでいく。親切にしてもらったことは、忘れずにいたい。いつかその人でなくても、どこかで返していきたいとは思う。自分のことを優しい人だとはとうてい思えないが、親切な人でありたいと常日頃から思っている。
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歳を重ねることが悪いことなんて思わないし。祝福されるべく記念碑的な日であることに変わりはなく。おめでとうの意味に感謝の気持ちを添えて、ハッピーバースデイ。
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一人暮らしをはじめた。会社に近く、実家もそんなに遠くない丁度よい距離で。家族で引っ越しをした。2tトラックを父の友人に借り、家族の人力で日曜にやった。暑い日で、トラックからマンションの居室へと何度も往復するたびに汗が額から滴り落ちた。猫はなんとなくそわそわして、壁の隅にうずくまっていた。荷物を運び終え、家族に礼を言い部屋に一人になった瞬間に、やっとここまで。とポツリと口に出した。ひと仕事終えても日はまだ高く、夏のそんな一面を愛おしく思い、散らかった部屋で夢も見ずに眠った。
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涙のあとを掌でこすり
寄せては返す波の音をじっと聴く
抱き寄せられるほど近くにいるのに
あの沖よりずっと遠いところにいて
だから見つめ合っても言葉もなくて
潮の満ち引きが心を撫でて
旋回する鳥に帰る場所はあるのだろうか
あの水平線のずっと向こうに
希望がある気がして
それが浜に打ち上げられないのかと
ただ海を見つめた
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それを最期だとも思わずに
いつものように寄り添って
言葉のない瞳で見つめるだけで
それがすべての答えで
そんな素振りも見せないで
気が付けば遠くに行ってしまい
ただ時たま近くに感じて
何処かと探してしまう
サヨナラの続きを
待っているのかもしれない
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眠い目を覚まして、まどろみの中で今はもういない猫の呼ぶ声が聞こえた気がした。小さなかすれるような声でエサを催促する、いつもの感じで。元気なもう一匹は日中、毛づくろいをしてもらおうと廊下や部屋を探しまわり、見つけられそうにないと分かると、箱に入ってふて寝した。みんな心の隅になんとなくいて、時たま思い出す。風になびくヒゲが優雅で、あんこの好きな綺麗な猫でした。